買収防衛策指針について

一.経済産業省・法務省の指針

  1. 経済産業省・法務省は、平成17年5月27日付けで、適法性且つ合理性の高い買収防衛策の指針を公表しました。
  2. 「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に対する指針」(買収防衛策指針)と呼ばれています。
  3. 日本では、敵対的買収に対する経験が浅く、どういった買収方法が公正な買収方法で、どういった防衛方法が公正な防衛方法なのかについて共通認識がありません。
  4. そこで、適法で合理的な買収防衛策のあり方を示して、買収に関する公正なルールの形成を促す目的で公表されました。
  5. 買収防衛策指針では、以下の3つの原則を示しています。
二.〔原則1〕企業価値・株主共同の利益の確保・向上の原則
「買収防衛策の導入、発動及び廃止は、企業価値、ひいては、株主共同の利益を確保し、又は向上させる目的を持って行うべきである」
  • グリーンメーラーや強圧的2段階買収など既存株主の犠牲の下に買収者の利益を実現しようとする買収に対する防衛策や、株主に判断させるための充分な時間・情報・代替案を与えるための防衛策を導入する事は、適法且つ合理的とするものです。
  • グリーンメーラー:株式を買い集め高値での買戻しを要求する買収者
  • 強圧的2段階買収:株主に売却を事実上強要する恐れのある買収
三.〔原則2〕事前開示・株主意思の原則
 「買収防衛策は、その導入に際して、目的、内容等が具体的に開示され、且つ、株主の合理的な意思に依拠すべきである。」
  1. 事前開示の原則:買収防衛策を導入しようとする会社は自ら積極的に導入の目的、具体的な内容、効果などを具体的に開示する事が必要であり、事前開示は、買収防衛策の導入の適法性を高め、株主や投資家等の理解を得る上で極めて重要であるとするもの。
  2. 株主意思の原則:株主総会での決議を得て導入する事を原則として、取締役会決議で導入する場合でも、株主に意思で廃止できる措置を採用する事を必要とするもの。

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四.〔原則3〕必要性・相当性確保の原則
  「買収防衛策は、株主平等の原則、財産権の保護、経営者の保身のための乱用防止等に配慮し、必要かつ相当な方法によるべきである」
  1. 株主間で異なる取り扱いをする買収防衛策については、株主防衛策に配慮し導入しなければならない。
  2. 買収者等の特定の株主に対して財産上の損害を生じさせる恐れがあるようなものについては、正当な手続きを踏む必要がある。
  3. 過剰でない相当な内容の防衛策を発動するために、外部専門家の分析を得るなどの慎重な検討を求められる。
五.東京高裁決定平成17年3月23日(ニッポン放送事件)
   この決定で「会社を食い物にしている場合」として指摘した買収類型
  1. 真に企業経営に参加する意思がないにも拘らず、ただ株価を吊り上げて高値で株式を会社関係者に引き取らせる目的で株式の買収を行っている場合(いわゆるグリーンメーラーである場合)
  2. 会社経営を一時的に支配して当該会社の事業経営上必要な知的財産権・ノウハウ・企業秘密情報・主要取引先や顧客等を当該買収者やそのグループ会社当に委譲させるなどの、いわゆる焦土化経営を行う目的で株式の買収を行っている場合
  3. 会社経営を支配した後に、当該会社の資産を当該買収者やそのグループ会社等の債務の担保や弁済原資として流用する予定で株式の買収を行っている場合
  4. 会社経営を一時的に支配して当該会社の事業に当面関係していない不動産、有価証券など高額資産等を売却等処分させ、その処分利益をもって、一時的な高配当をさせるかあるいは一時的高配当による株価の急上昇の機会を狙って株価の高価売り抜けをする目的で株式買収を行っている場合。

種類株式についてどのような場合に株式買取請求ができるようになったのでしょうか。

一.種類株式とは

  1. 旧商法は、各株式の権利の内容は同一である事を原則としていました。
  2. 例外として、一定の範囲と条件のもとで、権利の内容の異なる種類の株式の発行を認め(種類株式制度)、また、種類株式について、ある種類の株式から他の種類の株式へ転換する属性を種類株式に付与することを認めています(転換株式制度)。
  3. 旧商法がこれらの株式の発行を認める趣旨は、一定の範囲と条件のもとで株式の多様化を認めることにより、株式による資金調達の多様化と支配関係の多様化の機会を株式会社に与えるためです。
二.平成13年11月改正・平成14年改正
  1. 平成13年11月改正
    (ア)議決権制限株式を導入し、種類株式の定款記載事項を弾力化し、会社が種類株主総会を開催すべき場合を定める事を認めました。
    (イ)従来の転換株式を転換予約権付株式と名称変更するとともにこれに関する規定を一部改正し、強制転換条項株式について明文の規定を設けました。
  2. 平成14年改正
    株式譲渡制限会社に限って、取締役・監査役の選解任に関する種類株式を導入しました。
  3. これらの改正は、ベンチャー企業等でのニーズに応えて、この意味での定款自治が認められる範囲を拡大したものです。
三.新会社法において、種類株式に関して株式買取請求できる場合
  1. 当該株式に譲渡制限の定めを設ける場合
  2. 当該株式に全部取得条項の定めを設ける場合
  3. 当該株式が取得請求権付株式である場合において、取得の対価として交付される予定の株式に1又は2の定めを設ける時
  4. 当該株式が取得条項付株式である場合において、取得の対価として交付される予定の株式に1又は2の定めを設ける時
四.
  1. 旧商法
    株式に譲渡制限の定めを設ける場合に、株式買取請求をすることができることとされていました。
  2. 新会社法
    株式の種類ごとに譲渡制限の定めを設ける事が可能になったため、当該種類の株式に譲渡制限の定めを設ける場合、および当該種類の株式の取得の対価として交付される予定の株式に譲渡制限の定めを設ける場合に買い取り請求できる事とされています。
五.
  1. 全部取得条項付種類株式は新会社法において新設された種類株式です。
  2. ある種類の株式に全部取得条項の定めを設けるための手続き要件として、当該種類の株主全員の同意を得る事を要求せずに,特別決議によることとする代わりに、株式買取請求をする事が出来ることとしています。
  3. ある種類の株式の取得の対価として交付される予定の株式に全部取得条項の定めを設ける場合についても、同様としています。

企業防衛と種類株式について

一.企業防衛と種類株式

  1. 旧商法においても、敵対的企業防衛策であるポイズン・ピルとして種類株式を利用する事はできました。
  2. 具体的には、友好的な企業等にいわゆる黄金株である拒否権付種類株式を発行する事により、仮に敵対的企業買収者が買収に成功したとしても計画していた施策について当該株主に拒否権を発動される恐れがあるため、買収の予防が期待されます。
  3. しかしながら、拒否権付種類株主が黄金株を譲渡してしまうと、予防できませんでした。
  4. 新会社法では、拒否権付種類株式を譲渡制限付の株式とすることによって、実効性を高める事が出来ます。
二.黄金株
  1. 株式買占めなどの敵対的買収によって合併される事態に陥っても、その譲渡を否決する事の出来る特別な株券を黄金株といいます。
  2. 「拒否権付株式」とも言われています。株主総会で合併を拒否する、その特別の権利を行使するためには1株あれば合併を拒否できるので、1株だけの発行を認めている国が多いといわれています。
  3. 旧商法では、普通株と同じく自由に譲渡することができたので、敵側にまわってしまう危険性もある為、上場企業が導入するケースは少ないといわれています。
  4. 新会社法では、企業の敵対的買収の防御策として使い易くするため、黄金株に譲渡制限を認め友好的な会社にだけ与えることの出来る規定が設けられました。
  5. 外国資本による支配の懸念を払拭させるため、郵政民営化後の郵便貯金銀行と郵政保険にこの黄金株を発行させる事も検討されています。
  6. 黄金株は英国では国営の資源開発、空港、水道事業を民営化する際、公共性が高い企業を敵対的買収から守るとの観点から発行された例があります。
  7. 日本での実例としては、国際石油開発株式会社が石油公団に対して黄金株を発行しています。
  8. なお、会社の重要事項を第三者に委ねることから、取締役の善管注意義務について問題が生じる可能性も否定できません。
  9. 又、上場企業では投資家保護の観点から規制の対象になる可能性もあります。
三.株券の不発行
  1. 旧商法では原則として株式会社は株券を発行しなければなりませんでした。
  2. 平成16年の改正では、定款で株式を発行しない旨を定めた場合は株券を発行しない事が出来るようになりました。
  3. 新会社法では、振替制度の導入や中小企業の実態を踏まえ、原則として、株券を発行しない事が出来るようになりました。
  4. なお、定款に規定する事により株券を発行する事が出来るようになりますが、その場合株式の譲渡においては株券の交付が必要になります。
  5. 株式譲渡制限会社においては、当該定款の定めがあっても、株主からの請求があるまでは株券を発行しない事が出来ます。
  6. 株式併合、合併、株式移転、株式交換等においては、所定の株券提供公告を行う必要があります。

株主総会以外の機関の設置については、どのような見直しが行われましたか。

一.旧商法

  1. 旧商法では、株式会社の機関設計に関しては、会社の規模により選択肢が制限されていました。
  2. (ア)大会社(資本の額5億円以上又は負債200億円以上)
     監査役会設置会社(取締役+監査役会+会計監査人)
     委員会等設置会社(取締役会+三委員会+会計監査人)
    (イ)中会社(資本の額1億円超かつ負債200億円未満)
     取締役会+監査役
     ※みなし大会社(中会社のうち、大会社に関する規定の適用を受ける旨の定款の定めを設けた会社)については、大会社と同様の機関設計も選択可能
    (ウ)小会社(資本の額が1億円以下かつ負債200億円以下)
     取締役会+監査役(監査役の権限は会計監査権限に限定)
二.新会社法
  1. それぞれの株式会社が実態に応じた運営組織を採用する事が出来るようにしました。
  2. 株式会社の機関設計に関しては、一定のルールの下、原則として、各会社が各機関等(取締役会、監査役・監査役会、会計参与、会計監査人)または三委員会等(指名委員会、監査委員会、報酬委員会、執行役)を任意に設置することが出来るようにしました。
三.
  1. 株主が不特定多数となる可能性のある公開会社や、会社債権者の数が多数に上ることが想定される大会社については、一定数以上の厳格な会社形態を義務付ける必要があります。
  2. 新会社法では、株式会社について、株式の譲渡制限の有無及び会社の規模(大会社か否か)の2つの観点から4区分して、全ての種類の株式につき株式の譲渡制限を採用している会社ではない会社(公開会社)や大会社については、一定程度以上の厳格な会社形態の採用を義務付けています。
四.
  1. 又、株式会社がどのような機関構成を採用しているかについては、株主のみならず、当該株式会社と取引しようとする者や債権者にとっても重大な関心事です。
  2. そこで、新会社法では各会社が選択した機関構成を登記する事により開示する事にしています。
  3. 株式譲渡制限会社において、定款で監査役の監査権限を会計に関するものに限る事は、必ずしも取引先に必要な情報ではないので、登記事項とはされていません。
五.
  1. 新会社法における機関に関する改正は、従来の株式会社に関する商法の規定と、有限会社に関する規定とを一体化しようとしています。
  2. 会社形態を株式会社に一本化した上で、その機関設計のあり方について見直しを行い、会社がその経営実態や企業ニーズに応じて柔軟な機関設計を行う事ができる制度を目指したものといえます。
  3. 新会社法の大きな柱の1つとして位置づけられています。

機関設計のルールについてはどうなっていますか?

一.会社法における機関設計のルール

  1. 全ての株式会社には、株主総会のほか、取締役を設置しなければならない。
  2. 取締役会を設置する場合は、監査役(監査役会を含む)または三委員会等のいずれかを設置しなければならない。ただし、大会社以外の株式譲渡制限会社(全ての種類の株式が譲渡制限株式である株式会社)において、会計参与を設置する場合はこの限りでない。
  3. 株式譲渡制限会社以外の株式会社には、取締役会を設置しなければならない。
  4. 監査役(監査役会を含む)と三委員会等とをともに設置する事は出来ない。
  5. 取締役会を設置しない場合は、監査役会および三委員会等を設置する事が出来ない。
  6. 会計監査人を設置するには、監査役(監査役会を含む)または三委員会等(大会社であって株式譲渡制限会社でない株式会社にあっては、監査役会または三委員会等)のいずれかを設置しなければならない。
  7. 会計監査人を設置しない場合には、三委員会等を設置する事ができない。
  8. 大会社には、会計監査人を設置しなければならない。
二.機関設計の組合せ
  1. 株式会社の態様による機関設計の組合せは全部で39通り考えられます。
  2. 新会社法では、定款自治の拡大により、いろいろな選択肢を提供し、その中からそれぞれの会社が自らにあった組織を作り上げられるようにしようとしています。
  3. このような株式会社形態の弾力化はとりわけ中小企業にとっては大きな意味のあることです。
  4. しかし、オプション化が広がった、いろいろな株式会社が作り上げられる、と言うことは、それぞれの選択肢のメリットとデメリットを充分に認識していないと、返って大きなマイナスを抱える事になりかねません。
  5. 専門家のアドヴァイスを受けるなど慎重な対応が望まれます。

株主総会の招集手続きについては、どのような見直しが行われましたか?

一.株主総会

  1. 株主総会とは株主の総意によって会社の意思を決定する株式会社の最高の必要的機関です。
  2. 新会社法においては株式会社の機関設計はこれまでとは劇的に変化し多様化することになりました。
  3. しかし、どのような機関設計をするにしても、株式会社である以上、株主総会は設置しなければなりません。
  4. 公開会社の株主総会と、従来の有限会社に相当するような非公開会社では自ずとその機能・性質に相違が生じてきます。
  5. そのため、新会社法における株主総会関連規定は、取締役会非設置会社の規定とそれ以外の規定(株主総会全般に適用される規定)とに分かれます。
二.株主総会の権限
  1. 旧商法
    ・商法または定款に定める事項に限り、決議をなす事が出来ます。
  2. 新会社法
    ・取締役会非設置会社の株主総会の決議事項に関しては制限がなくなります。
三.株主総会の招集
  1. 招集地
    (ア)旧商法
     ・定款に別段の定めがある場合を除き、本店の所在地またはこれに隣接する地において招集することを要しました。
    (イ)新会社法
     ・株式会社の開催場所を自由に定める事が出来ます。
  2. 招集通知
    (ア)旧商法
     ・会日より2週間前に各株主に書面を持って発する事になっていました。ただし、株式譲渡制限会社においては、定款で1週間を限度として短縮する事ができました。
    (イ)新会社法
     ・総会の日の2週間前までに株主に対し通知しなければならない(総会に出席しない株主に書面ないし電磁的方法による議決権行使を認める場合を除く)。
     ・非公開会社の株式会社においては、1週間前まででよいと短縮されています。
     ・当該非公開会社が取締役会非設置会社である場合は、定款でこの1週間を下回る期間を定める事も可能です。大いに短縮する事が可能になりました。
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三.招集通知の方法
  1. 旧商法
    ・株式会社の招集通知は書面または電磁的方法によりました。
  2. 新会社法
    ・取締役会非設置会社の場合は書面又は電磁的方法によらずに総会を招集することが出来ます。(口頭や電話でもよい)
  3. 電磁的方法による議決権行使
    ・総会に出席しない株主が
    (1)インターネットのウェヴサイト(ホームページ)
    (2)電子メール
    (3)フロッピーディスクやCD-ROMの交付等の方法で議決権を行使することを言います。
  4. 会議の目的事項の記載・記録の要否
    (ア)旧商法
     ・株式会社の招集通知には、会議の目的たる事項〈議題〉を記載しなければなりませんでした。
    (イ)新会社法
     ・取締役非設置会社の場合は、会議の目的事項の通知は不要になります。また、計算書類および監査報告書の添付を要しません。

株主総会の決議要件についての見直しはどのように行われましたか?

一.旧商法

 株式会社の株主総会の決議要件
  1. 普通決議については、定款に別段の定めがある場合を除き、総株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その議決権の過半数の賛成で成立する。
  2. 定款変更、合併等におけるいわゆる特別決議においては、総株主の議決権の過半数または定款に定める議決権数〈総株主の議決権数の1/3未満と定めることが出来ない。〉を有する株主が出席し、その議決権の2/3以上による賛成によって決する。
  3. 株主譲渡制限のための定款変更等におけるいわゆる特殊決議においては、総株主の過半数で、かつ、総株主の議決権の2/3以上の賛成により成立する。
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 有限会社法の有限会社の、社員総会の決議要件
  1. 普通決議については、定款に別段の定めがある場合を除き総社員の議決嫌の過半数を有する社員が出席し、出席社員の議決権の過半数の賛成により成立する。
  2. 定款変更、合併等におけるいわゆる特別決議においては、総社員の半数以上で、かつ、総社員の議決権の3/4以上を有する者の同意により成立する。 
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 二.新会社法
  1. 機関設計の如何を問わず、普通決議、特別決議、特殊決議の要件について、原則として、旧商法における株式会社における各要件と同じ。
  2. 特別決議、特殊決議、について、それらの要件を加重し、または当該要件に加えて一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定める事を妨げない事を明確化。
  3. 株式譲渡制限会社においては、現行有限会社法における解釈を明確化して剰余金の分配、議決権等に関し,定款を持って別段の定めをおく事ができるものとしています。
  4. しかしながら、当該規定は株主平等の原則の例外的なものであり、当該定款の定めの新設または変更のための株主総会の決議については、株主の権利内容に重大な影響を及ぼします。
  5. そのため、その決議要件を加重して、有限会社の特別決議の要件と同様の決議要件(総株主の半数以上、かつ、総株主の議決権の3/4以上)としています。

取締役の資格及び員数に関してはどのような見直しが行われましたか?

一.旧商法

  1. 旧商法
    ・株式会社においては、取締役は3人以上必要です。
    ・取締役の資格を定款で株主に限定する事は認められていません。
    ・取締役の欠格事由として、破産手続開始決定を受けて復権していない者があります。
  2. 有限会社法
    ・有限会社では、取締役は1人で足ります。
    ・取締役の資格を定款で社員に限定する事は制限されていません。
二.新会社法
  1. 株式会社については、取締役の人数は原則として1人で足ります。
  2. 株式譲渡制限会社については、定款により、取締役の資格を株主に限定する事も可能にしています。
  3. 破産手続き開始決定を受けて復権していない者を欠格事由からはずしました。
  4. 欠格事由の対象となる犯歴に、証券取引法違反や各種倒産犯罪の罪を加えています。
  5. 取締役会を設置した会社は従来どおり取締役は3人以上必要です。
  6. 公開会社は取締役会を義務付けられています。
  7. したがって、結果的には、取締役の人数が1人でも足りるのは、株式譲渡制限会社のうち、取締役会を設置しない会社のみとなります。
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三.改正の理由
  1. 取締役の資格を株主に限定できないという旧商法の制約は、社会に散在する資本を経営の意欲及び能力を有しない株主から集約して、経営の専門家に委ねるという資本と経営の分離という株式会社の本質に適合するものと言われていました。
  2. しかしながら、実際には、株式会社の大半が中規模若しくは小規模会社である日本では、出資者と経営者が同一であるという事が大半です。
  3. そこで、法律を社会の実態に合わせて、閉鎖会社においては、株主でなければ取締役になれない旨を定款で定める事で、実情にあった体制を取れるようになりました。
  4. 又、破産者が早期に経済活動を再開できるようにするために、破産者に対する資格制限が撤廃されました。
  5. 特に、中小企業の破産の場合には、経営者が会社の債務について個人保証をしているケースが多く有ります。その結果、経営者自身も破産に追い込まれるケースも多く見受けられます。
  6. このような場合、経営者に不動産等のある程度の資産もあることもあって、免責の決定を得るまでに相当の日数を要している事も少なくありません。
  7. そのため、早期に会社の取締役として経済的再生の機会を与える事が必要であるとして、実業界から当該規定の削除を求める声が多く有りました。
  8. そこで、そのような指摘を受けて、会社法では「破産手続開始決定を受けて復権していない者」を取締役の欠格事由からはずす事としました。
  9. そして、このような者を取締役に選任することの適否については、当該会社の株主総会の判断に委ねました。

取締役の選任と解任については、どう見直しが行われましたか?

一.旧商法

  1. 取締役の選任の決議要件
    ・普通決議
  2. 取締役の解任の決議要件
    ・正当の自由の有無を問わず、いつでも株主総会決議により解任できる代わりに、その決議要件は特別決議
  3. 選任時と解任時の決議要件の差異
    ・株式会社において、株主の支配権を確保するために取締役の解任事由を制限しない事と、取締役の地位の安定に配慮する必要性とのバランスを図るため。
  4. 昨今の情勢
    ・株主総会による取締役の選解任を通じた取締役に対するコントロールを通じ、株式会社のガバナンスの向上を図るべきとの指摘が強まっています。
二.新会社法
  1. 会社経営の機動性の確保を図るため、株主総会決議を必要としない組織再編行為の範囲を拡大しています。
  2. そのために、会社の経営の自由度を高める措置を講じており、株主の意向を会社経営に反映させるための手段としての株主総会による取締役の選解任行為の重要性が増しています。
  3. 選任
    ・普通決議
  4. 解任
    ・定款で特別の定めがない限り普通決議
  5. 解任を普通決議にした理由は、株主の利益に反する取締役を容易に解任する事が出来るようにする為です。
  6. 具体的には、これまでは、特定の株主が総株主の議決権の過半数を支配していても、商法上3分の2以上支配されていなければ取締役が任期途中で解任される事はありませんでしたが、新会社法が施行された後は、このような株式会社では、取締役の任期途中での解任が可能となり、取締役と株主との一層の緊張関係が生まれる事となります。
  7. このような株主総会における取締役の解任を通じた取締役に対するコントロールは、もともと商法が予定しているものであり、コーポレート・ガバナンスの観点からは望ましいものといえます。
  8. なお、累積投票制度によって選任された取締役については、少数派の株主の意向を取締役の選任に反映させるという累積投票制度の趣旨に照らすと、これを普通決議によって解任する事を認める事は相当でないため、解任決議の要件としては、特別決議を維持しています。
(キーワード)
累積投票 
  • 株主の有する株式一株(単元株式数を定款で定めている場合は、一単元の株式)につき、当該株主総会において選任する取締役の数と同数の議決権を与え、株主は、1人のみに投票してもよいが、その投票の結果、最多数を得たものから順次取締役に選任されたものとする取締役の選任方法。

普通決議
  • 議決権を行使することの出来る株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にああっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあってはその割合以上)によって、決議する方法。
  • 役員の選任及び解任の決議を要する株主の有する議決権の数(定足数)が、総株主の議決権の3分の1以上でなければならないとする点が、他の普通決議の場合と異なります。他の普通決議に関しては、定款によって定足数を排除することも可能です。
コーポレート・ガバナンス
  • コーポレート・ガバナンス(企業統治)とは、どのような形で企業経営を監視する仕組みを設けるかという問題です。
    不正行為の防止の観点からだけでなく、近時は企業の収益性・競争力の向上の観点からも、コーポレート・ガバナンスのあり方について世界的でさまざまな議論がなされています。
    コーポレート・ガバナンスは会社法などの法制だけに拘わる問題ではなく、実際上の対応も非常に重要です。

重要財産委員会を廃止して特別取締役制度を創設した理由は何ですか?

一.重要財産委員会

  1. 旧商法では、大会社・みなし大会社では取締役会決議により、これとは別個の機関である重要財産委員会を設置できる旨規定されています。
  2. しかし、重要財産委員会を設置している会社は、現在少数に留まっています。
  3. その原因としては、
    (ア)重要財産委員会という新たな機関を設けるための準備に労力がかかること
    (イ)重要財産委員会が重要な財産についての委任を受けていない場合があるにも拘らず、「重要財産委員会」と呼ばれる等名称上の難点があること
    (ウ)近年の取締役の数の減少傾向を考えると、取締役の数が10人以上であることという要財産委員会の設置要件のハードルが高い事等が指摘されています。
  4. 又、重要財産委員会は、
    (ア)取締役会の決議によって設置される
    (イ)重要財産委員会には固有の権限がなく、設定されたとしても取締役会から委任を受けなければ何も出来ない
    (ウ)重要財産委員会が設置されて登記されたとしても、取締役会が重要財産委員会に商法260条2項1号または2号に掲げる事項について、委任をしていない場合があるため、第三者は、取締役会決議の内容を確認しない限り、重要財産委員会の権限を知る事ができないという点で、法制的な整備が必要となりました。
  5. 以上のような点を克服するため、重要財産委員会制度を特別取締役制度として再構成することにしました。
二.特別取締役制度
  1. 取締役会とは別の機関という構成をとらず、取締役会の決議要件の特則と構成する
  2. 取締役会が特別取締役を選定した場合は、具体的委任をしたかどうかに拘わらず、特別取締役は、当然に重要な財産の処分及び譲り受けならびに多額の借財について決議をする権限を有するものとする
  3. 特別取締役を選定する事が出来る株式会社の要件については、10人以上の取締役を必要とする現行の要件を、6人以上の取締役でかつ、そのうち1人以上が社外取締役であること、で足りる事とするというふうに、法整備しました。
〈キーワード〉
 社外取締役:
 当該株式会社の取締役であって、当該会社・その子会社の業務執行取締役・執行役・支配人その他の使用人でなく、かつ、過去に当該会社・その子会社の業務執行取締役・執行役・支配人その他の使用人になったことがない者をいいます。

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